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インタビュー:平野啓一郎による「飯田橋文学会」

――飯田橋文学会というグループについてまずは解説を。


文学に携わる者どうしが声をかけ合って、気楽な感じで集まっているんです。飯田橋にあるスペースで例会をしているので、飯田橋文学会と命名しました。作家や研究者が実際に顔を合わせるのがいちばんの目的なので、まずは近況を語り合ったり、最近読んだ本についてあれこれしゃべったりしています。くわえて、参加者が自身の関心に沿って簡単な発表をする時間もあるし、作家が自作を朗読したりもします」


――飯田橋文学会を立ち上げた意図は?


「実際のところ、いま、作家同士の交流ってほとんどないんですよね。文芸誌の対談なんかで会うことがあっても、次に顔を合わせるのは三年後だったりする。僕がデビューした十五年ほど前はちょうど、『文壇が解体された』としきりに言われていて、僕はそれでかまわないんじゃないかと思っていました。文壇バーは一つの〈場所〉でしたけど、そのコミュニケーションには、積極的に関わってこなかった。似たような感覚の作家はきっとたくさんいて、結果的に交流の場がなくなっていったという面はある。

 ただ、いつの時代でも、文学、美術、音楽とジャンルを問わず、共通の問題意識を持った人たちがいろんなかたちで集い、考えを深める場は存在した。僕らの時代にそれがないままでいいんだろうか。最近、そんな疑問を感じるようになりました。書くことはどこまでも孤独な営みだけど、考えていること感じていることを率直に話せる場があれば、創作にいい効果を及ぼすはずです。

 互いの作品を批評するときだって、相手をよく知った上でやりとりするほうが健全ですよ。厳しく議論するには相手を知らないほうがいいという考えもあるけれど、現実的には逆効果にもなる。親しくない人に辛辣に批評されると関係がそこで終わってしまったり、正しい指摘でも感情的に受け付けなかったり。そういう事態を懸念するあまり、あまり知らない人の書評を頼まれると、いいところをなんとか見つけてほめようとすることもある。だったら親しい、遠慮の要らない間柄になって、互いの仕事をリスペクトしつつ、『その考えは理解できない』などとストレートに言った方がクリエイティヴです。ただ褒め合っているだけだと、自然に気持ち悪くなってきますから(笑)。

 やっぱり、直接もっと顔を合わせたほうがいいんです。そう人に話していたら、どうやら他の作家や研究者の多くも同じことを考えている。それなら具体的な場所を設けてしまおうとなったわけです」


――参加資格は?


「知り合いに声をかけていきながら、徐々に人数が増えてきたというだけで、自然発生的な感じです。世代や立場で区切るようなことはまったくしていません。でも、なんだか三十代前後の人が多くなっていますね」


――昨年夏の発足以来、隔月ペースで例会を開いています。作家では田中慎弥、柴崎友香、綿矢りさ、中村文則といった面々。研究者ではロバート・キャンベル、都甲幸治、阿部公彦など錚々たるメンバーが集っている。今後、さらに規模は大きくなる?


「そうなるだろうと思います。でも、とにかくまずはあくまで自分たちのために集まり、交流を深めていきたい。デビュー間もない人なんかにも加わってほしいですよ。文学の話って、尊敬していて親しい相手と密にやりとりするのがいちばん楽しい。文学を好きな人たちが、心置きなく話のできる場になっていれば何よりです。そうして文壇内の活性化がうまくいきはじめたら、こんどは外の人たちをどんどん巻き込みたいし、文学会からいろんな発信もしていけたらいいですね。ホームページはぜひ持ちたいし、たくさんの人が参加できるイベントも開く予定もあります。あと、海外の作家との交流も活発にやりたい。

 文学に関心はあるのに、どこからアクセスすればいいかわからないという人はけっこう多いんじゃないですか。シビアな批評ももちろん大事ですが、文学は作品を読んでとにかくおもしろい、感動したという気持ちが真っ先にあるべき。そのあとに『なんでこんなにおもしろいのか』『どうして感動したんだろう』と考えて、そうかこんなアプローチで分析すると見えてくるものがあると気づいたりする。この順番は大事ですよ。文学の魅力に触れる入口になること、それもこの会の役目かなと思っています。

 会のホームページやイベントで、作家とその作品のことを知ってもらう機会を増やしたいです。新作だけじゃなくて、参加作家たちが十年単位でどんな活動をしているかわかる紹介ができれば。一人ひとりの作家性を感じ取ってもらえたら、きっと作品の理解にもつながるはずですから。

 会のホームページやイベントを通して、作家同士や作家と批評家のやりとりに留まらず、作家と読者の関係も、親密さと信頼で結ばれるようになっていくといい。そこから読者同士もつながっていって、自由に文学を語るような状況にまでなるといいなと」

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